現実と幻想のはざま(三改)

日々の中で色々刺激を受けて思ったことや感じたことなどを書いています。あと米津玄師の楽曲MVの解釈と考察など。

13、鷲田清一『<弱さ>のちから──ホスピタブルな光景』

ゆえのです。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

不定期に、スピ某所で教えてもらった文章や本などを差し障りのない範囲で紹介しています。

 

今回は、鷲田清一『<弱さ>のちから──ホスピタブルな光景』です。

2013年1月頃にMLに投稿されました。

東日本大震災が起きた日も近いので、こちらを紹介しようと思いました。

 

 

 MLからの抜粋ーーーーーー

(以下、千夜千冊/松岡正剛より抜粋)

1000ya.isis.ne.jp

 

大被災した日本。棄損した東北。引き裂かれた家族。
もどかしい声援。断線した心。
3・11におこったのは、
地震津波原発事故だけではなかった。
砕かれた母国を前に、われわれの中にひそむ
「挫けそうなもの」が露出した。
それはひょっとすると、この数十年にわたって、
政官財民の右肩上がりをめざす安易な成長神話が
そのつど処置されてきたものたちの
形代(かたしろ)の露呈でもあったかもしれない。
もはや「強さ」ばかりを求めていてはならない。
いまこそ「弱さ」からの再出発を
決断する日が近づいている。
「存在を贈りあう社会」が切望されている。

***
3・11以来、日本列島の弱い部分についの議論が、いまだぽつぽつとではあるけれど、少しずつ深まってくるようになった。

この数十年間、日本はやたらに「強さ」を求め、どんなグラフも右肩上がりであるのがいいと言い合い、世界のどこでも自慢できるような規準値に追いつき、企業はつねに勝者であろうとすることを誇ろうとしてきた。

それがばかばかしいほどのグローバリゼーションの美名とともに広まった。

しかし、そんな規準値に向かう途中には、実のところはとんでもない欠陥や弱点やカオスが、国家にも企業にも地域にも、町にも学校にも家族にも個人にも、ひそんでいたはずなのである。

それをみんなで隠蔽しすぎたようだ。それが3・11で起爆すると、とたんに「少ない物資でもがんばろう」ということになった。

本書は「強さ」を求めない。「弱い場所」から発せられた言葉と出会うことによって書かれたエッセイである。ここには、傷を負った言葉、挫けそうな心、ひりひりした気持ちが、丹念に拾われている。

講談社の「本」に連載されていたエッセイで、後半に、ぼくの『フラジャイル』(現在はちくま学芸文庫)もとりあげられている。

*****

これらの人々との接触と会話を通して、鷲田さんは「世話」(サービス)と「隷従」(サーヴィチュード)とのちがいを、「提供」と「交感」のちがいを実感しようとしていったようだ。

こうした作業をなんどもトレースさせ、自分の思想をほぐしつつ、そこから少しずつ「かけがえのない言葉」を掬(すく)っていくというのは、かねてから鷲田さんが得意とする手法であるのだが、本書でもその手法が着々と積み重なり、読者に何かを実感させていく。

その何かというのは「弱さのちから」というものの可能性のことだった。

最後のほうになって、中川幸夫田口ランディ、映画監督の伊勢真一の『えんとこ』の言葉、それにぼくや鶴見俊輔中井英夫の言葉が出てくる。

中川さんや鶴見さんは「存在の他者性」や「その他の関係性」に可能性を見いだすことを、田口さんや遠藤さんの言葉からは「力をもらう」ということが導き出される。

ぼくについては『フラジャイル』が引用されていて、弱さ、脆さ、傷つきやすさに共有されるものの重要性にふれ、「弱さは強さの欠如ではない」ということ、「おほつかなさ」の重要性などが引き出されていた。

すでにパスカルが言っていたことであるが、フラジャイルな哲学では、強さを求めることは自由よりも束縛をもたらすことが多く、むしろ弱いものに従うことが自由なのである。

自由はつねに現在を伴っている。それを哲学では「現前性」などという。けれども精神医学の臨床医である中井さんは、本来の“presence”は「現前」というよりも、「そこいてくれること」であって、ケアやホスピタリティは“onpresence”(互いにかたわらに居合わせること)のほうへ向かうべきではないかと言った。

鷲田さんはそこに共感する。かくて本書は、まとめていえば「存在を贈りあう関係」についての本だったのである。

それにはまずは人々が何に関心を示すかということを、もっともっと重視しなければならない。3・11後の日本に求められることも、そのことだ。

ふりかえって、そもそも“interest"(関心)とは、ラテン語では“enter-esse”ということ、すなわち「人々のあいだにいる」ということだったのである。

ーーーーーーここまで

 松岡正剛さんの本「フラジャイル」も貼っておきます。

フラジャイル 弱さからの出発 (ちくま学芸文庫)

フラジャイル 弱さからの出発 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:松岡 正剛
  • 発売日: 2005/09/07
  • メディア: 文庫
 

 終わり。